先日のTorizoのCMWC2位の知らせは自分の事のような吉報。
彼は納車したばかりのRew10フレームで見事な成績。
自分自身でレースで勝つという事にはあまり興味が無く、誰かがうちのフレームで良い成績を残してくれるほうがその人に合った自転車が作れたのだなと、職人として生きる自分には誉れな事です。
ストリート仕様が得意と自負しているので、その象徴でもあるかのようなメッセンジャー世界大会での結果は嬉しかった。
すぐに馴染む事のできるフレームを作れて自分の考えも間違いではなかったと、今回手ごたえを感じました。
速さにおいて、ほとんどの要素は乗り手のスキルで決まると思っており、まず自転車というよりもTorizoという男の身体能力が凄いのだと思います。
ただマシンも最低限以上の性能を備えていなければ当然速くは走れません。
彼を少しでも助けることができたと思うと職人冥利につきるわけです。
乗り方、考え方、希望、好み等、色々と伺っていきフレームを作り上げていくわけですが、様々な要望に対しての応え方が以前より明確になりつつあります。
その中でもジオメトリーはやはり重要で、独自の考えを多数使ってます。
身体に合わせたポジションをそれなりに出すという目的ならば市販車でも十分、オーダー車はポジション出す事など言うまでもなく当たり前。
もっともっと深い部分も合わせていくような製作がオーダー車であるべきだと考えてます。
どうやって構築していくかというと、お客さんの要望と自分の経験からの勘です。
言葉だけで聞くと曖昧ですが、独自の感性、失敗成功を積み重ねてきた経験、学んできた基本をその勘に込め生かしています。
まだまだ若輩浅学ですが、個性が打ち出せてきたと感じます。
びっくりされる方も多いかもしれませんが、うちでは身体の寸法採寸はしたことがありません。
採寸よりも事細かな相談が大事だと思ってます。
採寸で導き出すジオメトリーは体躯を見ただけであらかた予想がつきます。
これは市販車でもやっているメーカーもあるし、わざわざハンドメイドのオーダー車でなくともできます。
オーダー車はBIKECADというアメリカのソフトを用いてジオメトリーをだす手法もあります。
素人でも寸法を打ち込むだけで自転車の図面が出来上がるという便利なソフトです。
BIKECADは本当に素晴らしいソフトで、自分もとある用途で使ってはいます。
自分がこのソフトを用いる場面は、その利便性を生かしてお客さんと相談しながら考えたジオメトリーをすぐにグラフィックとして見てもらうツールとして使っています。
オーダー車は出来上がるまで見せられないので、せめて二次元だけでも素早く見せることのできるこのソフトを相談時に用います。
BIKECADは身体の寸法を入力しても基本的ジオメトリーを導きだせる便利なソフト、ジオメトリーをあまり知らなくてもなんとなく基本的数値がだせるというもの。
その寸法は正解の一つではありますが当然うちの個性ではなく、ごく平均的考えに基づいたBIKECADの基本的寸法となりますので、概ねジオメトリーが決まった後のお客様へのルックス確認、微調整程度にしかBIKECADは用いません。
これに頼るだけでは応用が利かないしRew10らしさもでない、個性も出しにくくなりますので本製作の図面はCADで全く別に引いています。
ビルダー各々の個性は、やはりお客さんの要望をどう数値として汲み取るかというところに玄妙があるかと考えます。
自分の編み出すジオメトリーは、時に基本的セオリーの数値と大きく異なる部分があります。
今回のTorizoのフレームにも、その前のTommyのPolo用フレームにも、Rew10的な独自要素がしっかりとジオメトリーに取り込まれています。
こういった数値は採寸だけでは絶対にでないし、お互い信頼ありきの密な相談でこそ出せると。
打ち出したい個性があるからオーダー工房をやっている価値があると思うのです。
そして人それぞれ好みに合わせた、かっこ良い。と思ってもらえるルックスに持っていくのも忘れてはなりません。
かっこ良いと思えるだけでも快適に感じ所有欲を満たしてくれるので、しっかりと体格と好みに合った見た目要素も重要になります。
身体とその人の好みに対して一番塩梅の良いサイズ感を追及する、ここはセンスが問われます。
基本的なセオリーもきちんとふまえた上で、独自な要素と感性を落とし込んでいくのがうちの勘でありジオメトリーの作り方。
どのような場面でどういう数値になるかは、このブログでは申し上げる事のできないぐらい多数の答えがあるので書けません。
ずっとストリートで乗り生きてきました。
そして今も生きています。
まわりの友人知人もストリートで生きています。
だからこのフィールドには特に自信があるのです。
日常生活、ストリートのための自転車、それはレースで培われた数値とは異なる数値も有効です。
それが細かいデータとして見えてきています、そのデータはセオリーとはかけ離れたものもあります。
レース仕様こそ至高のようにも感じる自転車業界、侮るなかれとアマチュアの日常使用も同様に深みのある世界だと思っております。
アマチュアのために考え抜かれた自転車、いかに快適に過ごせるか、それを真に追及している自転車が少ない気がします。
速いことも大事、だが速さがすべてではない、そんな自転車を作ります。
楽しくあれるか、それが一番。
Rew10的工学、それは勘とセンス。
それを個性と信じて今後も製作していきます。