エアロ形状。
特定の用途と環境でなければ特に市街地等は飾り的要素の意味合いが強い仕様と言える。
クロモリでもカーボンフレームのような流線を描くエアロフレームがある。
クロモリエアロフレームのローフィニッシュ姿はなかなかお目にかかれない。
鉄エアロフレームの作り方はベースの平板をフレームに貼りつけ流線はパテで盛り造形されるものが多いでしょう。
製造上の都合で未塗装状態はなかなか製作側も見せたがらないのだと思う。
有難いことに台湾からわざわざオーダーにいらしてくださったお客様がいらっしゃる。
ご要望がエアロ形状のクロモリフレーム。
諸々相談の結果、おおよその定石通りに板貼ってパテで造形しましょうか、という方向でオーダーをお受けする。
いざ製作順番、モヤモヤとする我が心中。
わざわざ国を越えてきてくれた熱いお方の期待は裏切れない。
兎に角自分は真っ直ぐな熱意にはとことん弱い、こちらも一太刀熱い心意気でお応えしたい。
修理再塗装で承った仕事の凹み修繕にはパテを用いたりするが、うちのオーダー製作では当然ながら今まで絶対に使わなかったパテ盛り。
今後においても絶対に行わないでしょう。
やはり鉄自転車を作る職人としてパテで造形を行うのはある種の敗北感を感じる。
修理で持ち込まれたフレームで素晴らしく美しいフィレットだな、と感動したフレームが過去にあった。
こんなフィレットを直すの大変だと敬意を持ちつつ、もったいない気持ちで塗装を剥がしたときにパテで造形されたものであったのが見えた時のあの心境。
お客さんにご了承いただいているとは言え、自分もある種同じような事をやってしまうのかと考えると手が止まる。
永い年月が経ち、自分が作ったフレームが何処かの工房で修繕される事があれば根性を見せたい。
パテを盛ってごまかしの美しさを見せるぐらいならば、頑張った結果の粗が見えたほうが潔い。
パテだと強度不足と経年変質なども気になる、期待にお応えしたい。
いつもの如く、意地むき出しの面倒な方向へ進む我が思考回路、面倒な性格。
後に後悔するより、苦労して出来る事をやりきるほうが良い。
この方はかなり身体が大きい、『頑丈さは大歓迎、それに伴い重くなる分にはかまわないので細部は任せる。』
と言ってくださっていたのを思い出す。
葛藤した結果、強度もばっちりな鉄で造形すると決意。
こちらの考えでやる事、手間は予定の数倍だがいただく工賃はパテ見積もりのまま。
勝手な後から上乗せ請求は大嫌い。
脳内でシュミレーションして出来ると思えたモノはすべて形にしてきたので、お前なら出来るはずだと己に言い聞かす。
通常通りにフレームをロウ付けした後、フィン作りに。
重量が増しても良いと言われていてもモノには節度というものがある、必要以上には重い構造は避けたい。
いくらかの軽量化をすべく0.8mmの薄鋼板を選択。
骨組みの内部構造を少し頑張って仕込み、薄板を三次元に曲げる。
当然型など一切ないので手探りの作業、かなりの鋼板がスクラップと化す。
やっと納得のいく板ができたところでロウ付けしていく。
ここまでもなかなかの苦労、しかし地獄はここから。
ひたすらに磨く、磨きまくる。
鉄工所勤務からの腱鞘炎が痛いがひたすら研磨。
ちょっとした歪みを滑らかにするのも相当な労力を要する。
いつもかなり大変だと思ってる通常のフィレットなんざ可愛く思えてくる。
これできっと体格の良い人が乗っても十分な強度があるだろう。
パテを盛るのがなんか悔しいので、失敗したら作り直す覚悟で挑んでみた鉄職人としての意地の造形。
何事も経験すると見えてくるものがある、次同様の加工をしたら完成度も上がっていることだろう。
この手の造形でパテを盛る気持ちは理解できたが、きっとまた鉄で懲りずに造形してしまいそうな気がする。
まあコストが相当なモノになりそう。
鉄で造形するこの方法は火を多く入れたり、重量も増加してしまうので、すべてにおいて良い方法だとは思わないが、今回は良き効果が期待できる。
こんな面倒な工作をしてバカな奴だ、と思ってもらえれば幸いです。
手間を避け効率ばかり考えたり、楽をして粗を塗装等で隠す職人にはなりたくないと思っています。
妥協すりゃ後で非常に胸くそ悪い後悔に襲われる性分なので、とことん手間かけてやろうという方向ばかりに傾きます。
どうせ後悔するなら妥協でなく、今回も手間かけてしまったなと後悔したい。
手間のかかる造作をノーマルにしていれば、手間が手間と感じなくなるような気がします。
うちはちっぽけなアングラ工房、効率悪く愚直で手間上等でいるぐらいが本分。
初期にも増して意地っ張りな昨今です。