先日紹介した自転車のフェンダー。
通常のタイヤの上側面にも被さるような丸いアーチ状断面ではなく、板型が良いというご要望。
しかも素材は真鍮で。
そんなもの当然世には出回って無い、よって作るしかない。
ブレーキレバーと同じくフェンダーも作った経験がない。
相談時から段取りなどを頭の中で想像し、出来そうだと思えたものはいままですべて形にしてきた。
出来ると判断するものは快くお受けし、出来ないと直感的に思うものは基本的にお受けしないが、難しい性質でも熱意とご理解がある方なら挑戦はする。
出来なかったらお代は頂戴せず、出来た時に成功報酬としてかかった手間分と材料費等の工賃を頂戴している。
今回は出来ると思えたし、このお客様ほど信頼厚く理解の深い良い方はなかなか居ないので渋る考えは自分には全く浮かばない。
絶対形にしてみせると意気込み製作に臨む、やはり納得できる仕上がりに出来た。
フェンダーのアールをタイヤとぴったり合わせるのは出来あいのフェンダーでもセッティングに苦労するものだが、一枚の平板からその曲面を作るのは作り慣れた部品でないのでなかなか大変。
適合する曲げ型なんぞは当然ないのですべて手作業。
この自転車は以前納車した一台がベース、そこからしばらく乗り、オーナーさんの熱いカスタム魂ゆえにさらなる進化をしたいと今回細部まで改造をした一台。
以前はアーチ形状のフェンダーを付けていたフレーム、今回の板型フェンダーだとタイヤとのクリアランスが空き過ぎる。
しかもタイヤも少し細くしたのでなおさら、不恰好にワッシャーを積んだり色気のないスペーサーで嵩上げするのもいただけない。
寸法ぴったりかつ曲面のついた専用真鍮スペーサーを旋盤で削り出し、ワッシャーを一切用いずにクリアランスを調整した。
ステーを止める金具はフレームと同様に鉄の黒錆仕上げ。
銅リベットをサシとしてきかせ、真鍮マイナスネジを一直線に揃えてシメ。
フェンダーの末端はエグみがでない程度にショートポイントの尖り。
数年後が楽しみなフェンダーです。
レバー同様、市販品の性質とはまるで異なります。
未知の領域は苦労が尽きないが、ばっちりやってくれると信じ依頼をくれているお客様のことを考えると、職人としての意地もありなんとか形にしたい。
製作でも修理でもなんでもそうですが、ろくに見もせず頭ごなしに出来ないとは言いませんので、なんでも相談してみてください。
うちみたいなところに断られたらそのお客様は何処へ行けば良いのか、そう考えるとなんとかして差し上げたくなるのが我が職人魂であります。
最後の砦としてでもお役に立てれば幸いです。